乙女ゲームの構造を考える。

今日はふらりと本屋に立ち寄って、何号か前から定期購読している「ゲーム批評」の最新号(vol.62)を購入。表紙をパッと見て「今回はPSPとDSの話がメインか」としか思ってなかったんですが、小特集が「乙女ゲームの構造」で、これが結構面白かったです。

コーエー(当時は光栄)のネオロマンスの元祖「アンジェリーク」に端を発する乙女ゲーム。10年の歳月をかけてようやく土壌が形成されてきた乙女ゲームとは一体何なのか? 表裏関係にあるだろうギャルゲーとはどこが違うのか? 10ページ程度の特集でしたが、コーエーD3パブリッシャー*1へのインタビュー、乙女ゲームミニカタログなど見所がありました。
中でも面白かったのが医学的観点からさまざまな恋愛本などを執筆している藤田徳人氏 (http://www.fujitanaruhito.com/) へのインタビュー。なぜ乙女ゲーに出てくる攻略キャラクターは中性的な容姿が多いのか? という質問に対し

なぜ、なよなよとした男性が人気があるかというと、それは搾取しないように見えるからなんですよ。みんな卵泥棒でしょ、はっきり言うと(笑)。女性っぽいほど、そういう卵泥棒……セックスをがんがんして都合よく扱うようには見えないわけですよ。
ゲーム批評 vol.62 p117より引用)

氏はこの発言の前に、女性は卵を持つ資産家、男性は無一文だと称しており、それゆえに女性は女性というだけで男性が集まってくるので、男性と比較して同性同士の競争やそれに伴うコンプレックスはない、とも言っています。なんかこの人の文章を読んで目からウロコが落ちた思い。ゲームは現実とは逆の事を求める場だから、男性は競争を望まないのだし(主人公が複数の女性から好意を寄せられる、というパターンが雛形化している)、女性は自分の努力(パラメータ上げなど)に比例する結果(対象キャラの攻略)を求める。またそれは自分の価値を高めるもの(いい男)でなければならない。

また、乙女ゲームはギャルゲーと違い肉体的なつながりをさほど必要にしてない。これは藤田氏ではなくて「フルハウスキス」のシナリオを手がけた方が書いていたことなんですが。これも現実とは反対で、女性は日常生活で何かと自分のセクシャルを痛感することが男性よりも多いんです。別に男尊女卑がどうのこうのという話ではなくて、生理という身体現象だったり、異性の視線だったり、本当に些細なことで。だからせめてゲームの中では、セクシャルを排除したい。セクシャルというのはここでは狭義の方で、性対象としてということです。

ゲームの話からは少しずれますが、この「セクシャルの排除」が今のボーイズラブや新少女コミックを生み出しているのではないかと思っています。なぜヤってばっかりの「やまなしおちなしいみなし」のボーイズラブ*2、少年誌と比べると過激すぎる性行為が描かれる少女マンガがセクシャルの排除になるのか? これは他のサイトで書いたことの焼き直しになるんですが、私はどちらも求めているのは「一個人としての価値」なんだと思います。BLでは「同性という障害を乗り越えても主人公(≒読み手)を求める」というシチュエーションが大事。なのでBL系の作品は、主人公と相手のどちらともヘテロセクシャル異性愛者)であることが普通です。もちろん作品によっては片方、もしくは両方ががホモセクシャルという設定もありますが、作品全体に占める割合は少ない。少女漫画についてはあまり読まないので多少見当違いない意見かもしれませんが、こちらも相手(自分よりも価値の高いとされる人物)が主人公(平凡な少女≒相手よりも価値が相対的に低いとされる人物)を、むりやり肉体的に征服してまで手に入れたい、という設定が大切なんじゃないかと思われます。BL、少女漫画に共通するのは「性」ではなく「一個人」としての価値、「女性」だから選ばれたのではない「主人公(≒読み手)」だから選ばれたのだ、という「特別感」。ゆえに過激な性表現をもって、本質的なセクシャルを排除しているのではないかと考えているわけです。

乙女ゲームもまたその延長上だとすれば、ギャルゲーと違って主人公のキャラ付けが明確にされているのも必要なことだと考えられます。主人公は「女」だから攻略キャラと相思相愛になるのではなくて、主人公が主人公であるから、そして努力をするから、攻略キャラ(自分よりも価値が高いとされるもの)とつりあうものになれる。逆に言えば、努力をすればそれに見合う対価(かっこいい彼氏)を得られる、というハガレンみたいな理論になるのでしょうか。現実は努力をしたところで相手がいなければ意味がないわけで、そのフラストレーションをゲームで解消しているのかもしれません。女性が二次元に逃避するとすれば、現実で異性に相手にされないということよりも、がつがつした現実の男に嫌気が差して、二次元の性欲(≒下心)がなさそうなキャラクターに安心感を求めるようになるからかも。

だから私は乙女ゲーと18禁乙女ゲー*3は本質的には別なもののような気もするんですが、いかんせん18禁乙女ゲーが少ないのでよくわかりません。18禁乙女はスキマ産業かな。また、BLと少女漫画は根っこのところでは一緒だと思うんですが、乙女ゲーとボーイズラブゲームはまた別のものだと思います。ボーイズラブゲームでも、主人公と攻略キャラの組み合わせしかなければ(そして主人公が受けなら)乙女ゲーと同じだと思うんですが、ボブゲの場合は主人公と相手にも受け攻めの問題があるし、脇カプ*4はそもそも乙女ゲーとは全然違うと思うので(主人公が狙ってたキャラが寝取られるイベントとかならまだしも)。

乙女ゲームではギャルゲーの主流であるビジュアルノベルタイプが少ない(というか私はしたことがない)ことも、乙女ゲーとギャルゲーの本質に大きな違いがあることに原因があると思います。ビジュアルノベルタイプのゲームはいくつかの選択肢によって分岐していくもの。その選択肢を選ぶとき、ギャルゲーのキャラが主人公に媚びているというみかけに反し、主人公(=プレイヤー)はキャラに媚びているのです。どうやればあの攻略キャラにたどり着くか、どうすれば好感度が上がるか、フラグが立つか。乙女ゲームではもちろんアドベンチャーパートもありますが、それだけでもない。「アンジェリーク」で目当て以外のキャラクターの好感度も上げて、告白してきたところを振る、という邪悪プレイを楽しんだ方も多いと思われます(というか私も楽しみました)。これはキャラに媚びさせるのが楽しいんです。結局のところ女性は自分の価値が高まるということが、一番の快楽なのかも。もちろんプレイヤーがキャラに全然媚びてないわけでもないし、攻略対象キャラの気に入るようには振舞うわけですが。

ここまで書いておいてなんですが、あまり乙女ゲーはやったことないので、やっぱり意見が偏ってるかもしれません。だけどこれが乙女ゲーをやる女子としての考えの一つです。やっぱりゲームは、現実を忘れさせるものでなくては。

*1:シンプルシリーズで有名な会社ですが、「召しませ浪漫茶房」「幕末恋華・新撰組」など乙女ゲームもコンスタントにリリースしています

*2:別にBL作品の全てがヤってばっかりではない

*3:まだ数は多くないですが、美蕾の「星の王女」シリーズなど

*4:主人公を交えないカップリングのこと。あんまり多すぎると主人公置いてきぼりで淋しくなるが、主人公カプ以上に萌えたりして塩梅が難しいです